語りSS(2)




 今更何も望んだりすることなど無いと思っていたのに。

 何かを望むということは、万が一その望むモノを手に入れたときに、

 同時にそのモノを失って絶望に打ちひしがれる可能性を生むことだと知っていたのに。

 それなのに僕は

 君を望む。


 僕は君を手に入れてはいないけれど、

 それでも今、君がもし他の男のモノになってしまったらと考えるだけでおかしくなりそうで。

 家に出入りする、昔から望んでいたはずの猫にさえ、

 いつ出て行ってもいいのだと

 いつか僕の元からいなくなることを覚悟して受け入れることができていたのに。




 いつかのキス。

 あの時はまだ大丈夫だったんだ。
 まだ大人の、笑顔の仮面を被って君から離れることだってできたんだ。

 それでも、入学式のときにふと目にした君の横顔に目を奪われた僕の、

 心の奥にしまい込んでしまおうとした気持ちは溢れ出てしまった。

 最初から気付いてはいけなかったのに。

 もう気付いてしまったから。

 失うモノなど何もないとは言えなくなってしまった。

 今はもう、君が僕の全て。